interview #002

2019.12.14 UP

舘鼻則孝さんが、花魁の下駄に着想を得て制作した靴(ヒールレスシューズ)は、レディー・ガガさんを虜にした。それから約10年、日本の伝統を独自の視点で現代的に発信し続けるアーティスト舘鼻さんの展覧会It's always the others who dieが開催される中、curioswitch代表の近衞が、東京都「江戸東京きらりプロジェクト」のメンバーとして旧知の舘鼻さんを直撃。二人の共通点「伝統文化」を軸にインタビューは進んでいった。

近衞:展覧会を拝見しましたが、正直、あんなにバリエーションがあるとは思っていませんでした。特に平面の作品には驚きました。純粋にグラフィックとして面白いうえに、独特の厚み感というか、重厚感がすごかった。本当に楽しく、見せてもらいました。

Photo by GION

舘鼻:ありがとうございます。基本的には、全て、このアトリエで制作してるんです。

近衞:凄すぎる……。舘鼻さんは東京藝術大学の工芸科出身ですが、もともと工芸の道へ進もうと?

舘鼻:最初はファッションデザインの世界に進みたくて、海外留学を考えていました。でも、世界で活躍するためには、まず自分のアイデンティティーでもある日本文化を学ぶのが、結果的に近道になるのではないかと考えたんです。そこでファッションに相対する日本の伝統、つまり「着物」を学ぶために、東京藝術大学で染織を専攻したのです。

左 curioswitch Creative Director近衞 右 舘鼻則孝氏

近衞:藝大では「伝統」を学んだのですね。

舘鼻:はい。伝統技法を習得するために通学していました。ただし、着物デザイナーになりたかった訳ではありません。ファッションブランドを立ち上げるか、海外留学するかを念頭に置きながら、4年間計画的に過ごしました。そして、卒業制作の作品を世界へ売り込んだら、すぐにレディー・ガガの仕事が来たのです。

Photo by GION

舘鼻:僕は、伝統文化の様式やフォーマットを時代に合わせて新しくしない限り、ただのリバイバルだと考えています。だから「着物」に関する伝統的なフォーマットを昔のままに使うことが良いとは思いません。ヒールレスシューズにしてもフォーマットは「靴」です。下駄じゃない。そこが大事。過去の日本文化を否定するのではなく、現代のライフスタイルにおいて、「日本が発信できる新しい文化」として世界へ何を打ち出すべきかは、重要な課題です。

近衞:同感です。もともと日本文化にはストーリーがあります。例えば、日本の着物は身体の線に合わせて縫製をしていない。立体造形ではなく、平面のままの二次元でできています。しかもほぼ反物の幅を基準に構成されているから、畳むと元の反物の幅のまま真っ平になる。三宅一生さんのプリーツ・プリーズも、一枚の布から出来ていて、コンパクトに畳めるという着物的な発想を、ファッションの文脈の中で世界へ浸透させました。伝統工芸の文脈から、現代のストーリーが生み出されたのです。

舘鼻:その話に関連して思い出すことがあります。ヒールレスシューズを発表した時の反応です。海外メディアですと、相手が日本人だという前提で、関連する文脈を調べた上で、深く聞いてくる。だけど、日本のファッションメディアは、どんな背景から作品が生まれてきたのかは僕のプロフィールを読めばわかるのはずなのに、決まって「これはどこからインスピレーションを受けているんですか?」と質問してくる。文化がおざなりになって、情報だけが消費されている感じがしました。これまでの文化的バックグラウンドがあって、その延長線上に今どう活動するのかが重要です。

伝統文化を現代に伝える難しさを語り合う

近衞:おっしゃる通りです。ただし、伝統」が足かせにならないようにするのも大変ですよね。歴史がある家や、伝統文化、芸能の継承者の多くは「伝統」を否定できない事で苦しんでいる。幸い、うちは両親が自由に育ててくれたから、私自身その呪縛には囚われていません。お陰で、武蔵野美術大学の映像学科へ進学することができました。とは言え、伝統文化とは、やっぱり無縁ではありません。私は、毎年1月に皇居で開催される歌会始に関わっていますが、当初は正直とても堅苦しくて分かりにくい世界だなと。所作などもなかなか身につかなくて苦労しました。しかしある時、これは広い意味での国家ブランディングのためのイベントなんだと腑に落ちたのです。平安時代の先祖も、歌会などを通じて、この国に崇高な文学が存在することを内外へアピールし、国のイメージをどう作るかというブランディングをしていたのではないか?それはクリエイティブ・エージェンシーであり、イベントプロダクションじゃないか?天皇陛下はクライアントではありませんが、陛下にお仕えする形で、私がイベントの現場にいる。本質的には昔も今も一緒なのではないかなと…。そんな中、中学生とか、若い方が現代の言葉で詠まれた歌を私が声に出していたりするわけで、「歌会始」は、実はとても面白いイベントなのです。

舘鼻:伝統と革新、過去と現在が共存しているのですね。

近衞:舘鼻さんと私が関わらせて頂いている東京都の江戸東京きらりプロジェクト」は、「江戸東京の伝統ある技や老舗の産品等に新たな視点で磨きをかけ、東京を代表するブランドとして、その価値と魅力を国内外に発信することで、インバウンドの更なる増加や、伝統の技の継承の実現を目指す」プロジェクトな訳です。

パリで行われた江戸東京きらりの展示の様子

近衞:3年目を迎えてどんなご感想ですか?個人的には、候補事業の幅が広いので、コンセンサスを取るのが難しくなってきたなと

舘鼻:でも、スタートラインには立てていると思いますよ。

近衞:おっしゃる通りですね。そういえば、「江戸東京きらりプロジェクト」にとっても、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開閉会式統括責任者に、狂言師の野村萬斎さんが就任したのは、追い風になるでしょう。ちょっと話がそれますが、オリンピックといえばフランスは、アルベールビルで、ドゥクフレという演出家に開閉会式を任せている。ドゥクフレは28歳の時に任命されて、それから3年後の1992年にアルベールビルの本番。オリンピックを28歳の青年に托してみるのって、すごいことですよね。

舘鼻:本当にすごい!でもアヴァンギャルドな考えを持っている人が決定権を持つ、リーダーになるのはとても重要なことです。

近衞:ヨーロッパはやはり、芸術監督を決めたら、その人が絶対的権限を持つ。全責任はその人が負う。でもいいからやってみろよ、失敗してもいいよ、ということが言えるけど、日本だとそういうことがなかなかできない。

舘鼻:確かに。ルーブル美術館の改修を行ったジャック・ラングさんも政治家だけど保守的ではなくチャレンジャーでした。ルーブル地下の発掘から始めて、宮殿からは財務省に退去してもらって、宮殿を丸ごと巨大な美術館「ル・グラン・ルーブル」へと変えました。財務省のためには新しい土地を取得して建設。大改修工事は20年かかったそうです。2018年に藝大で行ったシンポジウムに来てもらったのですが、やはりすごい人でした。アーティストに対してとても優しい。サポートする気満々。新しいことを始める、ということに対して非常に寛容です。フランスの、国としての方針に感心しました。

20年かけて蘇ったルーブル美術館  

近衞:伝統文化のフォーマットを時代に合わせて新しい創作を行う中で、将来こういうことを表現したいというのはありますか。メインはファッションだけれど、アートも並行してやっていく?

舘鼻:最初はファッション1本でした。でも大学卒業後、レディー・ガガの仕事をしていた2年ほどだけです。それ以降はシューズに限らず、色んなフォーマットで表現の多様化に挑戦してきました。伝えたいことは同じ。日本古来の文化の延長線上に、今の日本文化をどう作るのか。靴でも彫刻でも絵画でも、自分にとってはハードルだと感じません。もちろんビジネスとして成立させなくちゃいけない。でも、アートというよりフォーマットといった大きな括りでは、活動しやすいのです。例えば、2016年にカルティエ現代美術財団で「文楽公演」を行った際、近衞さんみたいに芸術監督をして、チームとして動きました。

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舘鼻:シューズ制作で手を動かすのとは違いますけど、やることは一緒。展覧会を催す時も普段から20人くらいのチームで動くので、文楽の公演も同じだなと。初めてでも、みんなで同じ方向を目指せばできる。カルティエ現代美術財団など色々な団体が、初めてのことを大舞台でやらせてくれる環境があって、本当に恵まれています。

雑談を織り交ぜながらインタビューは和やかに進む

近衞:舘鼻さんにとって究極のライフワークって何ですか?

舘鼻:何だろう……やはり時代によって変化し続けることが大事だと思います。僕は今34歳ですが、何歳で死ぬかわからないけど、それまで時代も変化するでしょうし、そこに呼応、反応することが一番。作家としてこんなものを作ったら完成というのはない。例えば国宝を作りたいとか、そういうことは全然考えていません。今の基準で判断されるような物を作っても新しくない。新しい価値観を生み出すことが大前提なのです。

近衞:アーティストとしての表現というものが中心にあるのですね。

舘鼻:はい。それが大前提としてあって、例えば文楽でもお能でも、伝統産業、伝統芸能とうまく寄り添って、新しい、革新的なものができたらいいだろうな、と。

近衞:お互い、頑張りましょうね。

舘鼻:頑張りましょう!

近衞:とにかく、面白いものを作らないとですね。

ーインタビュー後も引き続き、伝統文化談義に花を咲かせていた舘鼻さんと近衞。皆さんもぜひ、変化し続ける舘鼻さんの最新作を、その目で味わってみてはいかがだろうか?
(※It's always the others who die」展は2019年12月22日に終了いたしました)

 Photo by GION

舘鼻則孝「It's always the others who die」

ポーラ ミュージアム アネックス(2019年12月22日まで)

東京都中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階 03-5777-8600

11:00~20:00 無休 入場無料

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